ほぼ死姦のように俺を抱く。
飽きず男の体を弄り、何が楽しいのかと俺はぼんやりとした頭で考えてみた。結果は出なかった。こいつが何が楽しくて、何が目的で、何が悲しくて俺を、俺なんかを抱いているのかなんて。わかるはずもない、俺はこいつじゃないのだから。
性器に無理矢理手を這わしても、生憎だが俺は感じない。けれどこいつは感じてる。何に興奮しているのか、何が面白いのか、何が気持ちいいのか。かすれた声で俺の名前を呼んでは、勝手に後ろの穴を広げて突っ込んで来ようとするのだから驚きだ。もう当の昔に驚きなんて感情は通り過ぎてしまったが。

「はっ、あ、………」

後ろに突っ込まれて痛くないのかと聞かれたら俺は返事をする前にその質問をしてきた奴をぶん殴ってやる。痛いに決まってんだろ。痛くないなんてどんなマゾだ。あらゆるプレイを尽くしたプロに決まっている、何のプロ?俺にもわからん。
ただこいつは掘られる立場ではなく掘る立場なので、微塵に痛みも感じないのだろう――とは一概に言えず、恐らく痛いのだと思う。そりゃそうだ、解れてもいないところに突っ込んで痛くないわけが無い。ただそう考えると、こいつは自分が痛いのに突っ込んでいることになる。あ、こいつもマゾか。または変態か。俺を抱いている時点でなんらかの変態だとは思っていたがな。

「痛い、抜け」

俺はそれだけ命令した。自慢じゃないが俺はこういった突発的な出来事に多少の耐性ができてきている。それこそ痛みを伴うことに対しても、だ。だからこんなにも冷静に、自分の体の中に無断で侵入してくるものを排出しようと思えるのだろう。
けれどこいつは多少俺の目を見つめてきただけで、また律動を開始した。何度も言ったはずなんだがな、俺はちっとも気持ちよくないって。それを理解しても尚、俺を揺さぶる。ああそうか、こいつは自分が気持ちよければ俺のことなんてどうでもいいわけだな。なるほど。
しかし、そう考えてみるとまた矛盾が生まれるわけだ。こいつはちっとも気持ち良さそうじゃない。声や顔に浮かぶ表情で、まあ感じてるまたは興奮してる、というのは読み取れるが、決して心から気持ち良さそうな顔はしないのだ。

「抜け、すぐに」

またも命令してみたが、こいつはまたも無視した。わかっていたことだし、もうほぼどうでもいいとは思っていたから、失望は無かったがな。今ははやく行為を終えてくれればどうでもいいさ、許してやる。今したことも、俺に突っ込んでいたことも、全部だ。
こいつは俺の胸を触るが平べったいここのどこに興奮要素があるんだろうな。お前の脳内を一度見せてくれ、余すことなく。そうしたら俺に対して興奮できる要素も見つかるだろう、見つけてどうするのかと言われてもちょっと困るがな。
がくがく揺さぶられる速度が速くなり、恐らく絶頂が近いんだろうなと考えた。ちなみに俺の性器はだらんと垂れ下がったままでちっとも感じてなんかいないさ。これで感じていたら俺がマゾになっちまう。
マゾサドをこんな状態で考える俺の頭も相当イっちまってるとは思うが、こいつよりはマシだろう。ついに俺の中に出し、それから入っていたものをようやく抜いた。満足だったか?後で力の限りその顔をぶん殴ってもいいか。

「すみません」

「何に対して謝ってんだ?」

「すみません」

「俺が怒らないうちに理由を言え」

「すみません」

「殴られたいのか?」

「すみません」

「わかった、歯ぁ食いしばれよ」

俺はどろどろの精液がついた下半身をそこらへんにあったこいつのシャツか何かで乱暴に拭い、拳を振り上げた。最近誰かを殴ったことの無い力の抜けた拳が、けれど確実にこいつの頬をぶん殴り、ぶっ飛ばす。背後のアラームに見事後頭部を打ち付けたこいつは、黙ったまま俺を見上げてもう一度「すみません」と呟いた。やっぱり殴られたかったのだろうかこいつは、もっと殴って欲しいのだろうかこいつは、どうして、こいつは。

「お前、最低だよ」

「すみません」

「意味わかんねぇんだよ。気持ち悪ぃんだよ。なんで俺なんかに突っ込んで興奮してんだ」

「すみません」

「謝ってばっかで俺にその謝罪の気持ちが届くとでも思ってんのか」

「…すみません」

「ふざけんな。ふざけんなよ、なんで、なんでお前、どうして」

俺はもう一度こいつの頬を殴った。けれど力が入らなくて、バチン、と音はしてもちっともいたそうじゃなかった。寧ろ俺が痛かった。はじけそうなくらい痛かったさ。どうして俺が今更泣かなければいけないんだ。掘られて、無理矢理やられて、血まで出たのに泣かなかったんだぜ、俺は。どうして今更泣かなきゃいけないんだ。こいつが好きって言わなかったからか。こいつがキスも何もしなかったからか。愛情表現を微塵も感じられなかったからなのか、俺はわからない、何も、何も。ああ結局俺も変態なんだと思い知る。こいつが好きだ。










なれ吠ゆるか/残念ながらぼくら狂ってる