指をぱきぱき折って食べたら痛いかなあ。
僕はその、ページを捲る男らしくて骨ばってて筋ばってる指を見つめる。かりこりと噛んだら硬そうな指を見ていると、ついつい口に含んでみたくなる。
死体を食べる習慣ってどこかに無かったかな。師匠に腹を壊すから人体だけは食べるなよと言われていたから律儀にもそれを守っていたけれど、食べたくなるのは人間の心理だ。
「俺の手指に興味がある?」
ラビが呟いて、本から手を離した。
さながら僕はジャーキーを与えられた犬のように、その指へと視線を送る。ラビが右から左へ動かせば視線を右から左へと。いいなあ。軟骨のようにこりこりとしていそうな指を見ていると自然に口の中が乾く。食べたい。食べたい。
欲求が口をついて出ていたのか、苦笑を浮かべたラビが眉尻を下げた。
「カニバリズムはちと荷が重いさ、アレン」
まるで食べろと言わんばかりに目の前に差し出された指。
戦闘で傷ついた爪に、ささくれだった皮。ところどころが泥で汚れていて、お世辞にも綺麗とは言えない。「ラビ、帰ったら、手は洗うものですよ」、失礼な、俺はちゃんと洗ってるさ、との言葉が返る。
「人間の肉っていうのはもともと食用じゃないからさ。ま、タンパク質の供給源が不足してた地域ではよくあったらしいけど。お前は食料に恵まれてんだろー、アレン」
指先がぴんと伸び、ゆっくりと1本ずつたたまれていく図を見て、にぎりこぶしを作っているんだと理解する。慎重に慎重に。ああ、指がなくなっていく。
かと思えばそれはぱたりと開かれ、僕の頭の上に乗っかった。
「なにを」
「んー、おなかがすいて危ないことを考えているアレンさんを撫でております」
くしゃくしゃとぬいぐるみを撫でるかのような手つき。あのこりこりとしてそうな指でなでられているのかな、なんて考えるだけで鳴る腹。今度は拳がおにぎりに見えてきたなんて言ったらラビはおこるだろうか。
おなか、
……すいたなあ。食べたいなあ。手指。指。こりこりと歯と歯の間で音が鳴りそう。おなかが、
「…ほら」
頭の上から手が落ちて、僕の手首を握った。
そのまま引き上げられ、半ば引きずられるように部屋を後にする。
「どこに」
「おなかがすいて危ないことを考えているアレンさんを食堂に連れて行っております」
ゆび、食べたかったのになあ。
コンコンと音をたてて進んでいく足。革靴は確か食べれたはずだ。おなか、すいたなあ。もうこの際なんでもいい。ラビが食べたい、ラビの。ラビのからだであればなんでもいい。おなかがすいてたまらない。
「ハチミツいっぱーいかけて、チョコスプレーとか、なんでも。トッピングいっぱいのホットケーキでも頼むか」
な?と微笑まれて僕は返答に困った。
やっぱりホットケーキでもいいかもなあ。
fjord/楽園知らず
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