「想い続けていれば褪せないだなんて嘘よ」
きらきらと輝く笑顔で言い切った言葉は正直、グロテスクでもあった。
もし彼女の兄がこの様子を見たのなら、全身の毛穴から血という血を噴出して死んでしまうんじゃないだろうか。というぐらい、オレにとってはショックなことだったわけで。オレは、夢を見ていたのだ。そう、くだらない夢を。彼女は不思議の国で育った、お菓子でできたお姫様、世の不浄を何も知らない穢れなき女の子だったのだと。
「『君が好き』『私もよ』の言葉の後に続くのは、たいていバッドエンド。女が寝取られるなんてものじゃないわ、女からベッドに飛び込むのよ!だって男は裏切るでしょう?最低でしょう?私より弱いでしょう?だから私も自分の好きなように行動するの。弱い男のくせに隠れて浮気だなんて最低だわ」
お前は一体何人の男を相手にしてきたのかと問いかけてやりたい。
その、清純そうな笑顔で。お前は誰をどうやって落としていったっていうんだ?まだ、お前は16歳だろう。オレより2歳年下で絶倫とか、マジで笑えねー。オレはこの秘密を――彼女は秘密だなんて思っていないかもしれないが――、生涯彼女の兄の前では隠し続けようと決めた。
「兄さんはね、鳥かごよ。私は鳥かごの中が大好きだけど、たまに羽根を伸ばしたくなるの。わかるでしょう?あなたなら。あなただって、奇妙な職業にとらわれて、自分の自由を見失ったりしていない?私だったら、そうねえ、そんな職業クソ食らえ、って蹴飛ばしてしまうかもしれないわ」
別に。オレが好きでやってんだから構わないさ。その答えにそうなの、と心底どうでもよさそうに彼女。ああ、オレの記憶が正しければ彼女はもっと楽しそうに笑う人間だった。
「あなたが好きなあの子も、絶対あなたのところから飛び立つわよ。約束してあげる!絶対よ。きっとね、今のうちに思い知るわ」
…ああそうかよ。オレはそれこそ絶対ないって言い切るね。俺の大事な大事な、どちらかと言えば人間よりは神に近い恋人は、白い髪の毛白い笑顔白い心でオレのことを愛してくれてるからさ、俺も全力で愛してるわけ。つまり、手元から飛び立つことも、それを許すつもりも微塵も無いわけなんだよ。
それを、彼女に伝えるべきなんだろうか。俺たちは大丈夫だからと。くだらないことを考えていないで自分が全うに正しく楽しく生きていける道を開け、と。そんなことを考える俺の顔を見て、かわいそうにね、と呟いたこいつは一体何だったのか。
「それこそ絶対にないって思ってもね、きっと思い知るわよ」
一体彼女は何があったんだろう。ついには泣き出してしまったその小さい両肩に手を置くなんて紳士的なことをする、なんてこともせず、オレは変わってしまった彼女をじっと見下ろすのだった。
なれ吠ゆるか/愛は褪せてゆく
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