世界の壊れる瞬間というものをこの目で見た。
私にとっての世界は自分の手で作り上げたちっぽけなもので、ちっぽけなものだと認めたくはないから虚言を言う。それについてきてくれる人間たちが世界と言っても過言ではなかった。
彼らは私を裏切らないと思っていた。これも勝手な妄言であり、確たる証拠などどこにも無い。けれど、彼は私を裏切らないと思っていた。彼らは私を裏切らないと思う傍ら裏切られるとも思っていて、彼だけは裏切らないだろうと思っていた、これが正しい。どれも妄言。
空は晴れていて、アスファルトからは熱気があふれ出ていた。街中で打ち水をしたところで、アスファルトは湿気のある熱気しか返さない。そんな、意味の無いことを繰り返す人間を横目に見つつ、進む。
私は、あまりにも世界から目を背けすぎていた。走りすぎていたのだ。走りすぎて、止まるべきところを通過してしまった。もう遅い。私が走ってきた道はもう引き返せず、よって止まるべきところももう消えてしまった。後は走り続けるしかない、ひたすらに。
手元にあると思っていた人間がいつの間にか手元からいなくなってしまう感触というものは、綿ぼこりが掌の上に落ちて気づかないうちに落ちるものと一緒だ。全く気づかない、気づけない。気づけるはずがない。私は手元を見ていないのだから。重量を感じさせない綿ぼこりが私に気づけと願っても、埃と意思疎通ができるほど私は特殊ではなく、いわばただの人間で。よって、遠回りな言い方をしてしまったけれど、結果的には手元からいなくなってしまっても私は、気づけない。
ゴミのように溢れる人間の中のちっぽけな私は、それだけまだまだ計り知れない出会いがある。男でも女でも、これから会おうと思えば誰にでも会えるのだ。国境すら越えて。そんななかで、ただ1人に執着するのは、やはり精神病。病んでいる。ただ1人のために、こんなに考えて考えて疲れて泣いて疲れて笑って楽しくて寂しくて、ああやっぱり、精神病だ。
(きっとこれが終わり。)
笑顔で手を繋ぎあう彼らの少し歪な笑顔を目の当たりにして、足元が崩れていくようだった。私にもし世界を改変する力があるのだとすれば、真っ先に私は皆を消して1人になっていただろう。裏切られたとかそんな気持ちでくくれるようなものではない。人の恋愛にどうこう口出しする気は無いと前にも言った。だから勝手に幸せになればいいと、
思う。
気づけば私は道路のど真ん中に立っていた。「なによ、うるさいわね」ブーブーとやかましいクラクションの音と共に、慌てたような怒っているような複雑な表情をして窓から身を乗り出す男が叫ぶ。韓国語でも喋ってるつもりなんだろうか?何言ってるかわかんない。適当にあしらって、悠々と道路を歩く。さっさと歩けと急かすようにクラクションを鳴らす車にはもれなく小石を蹴ってぶつけてやった。小石が勝手に飛んでいっただけで、私に罪はない。
私は何をしに街中に出たんだっけ?それを覚えていない。大事なところがとんでしまうなんて、疲れてでもいるんだろうか。少し、考えすぎたんだろうか。気づけば頭が痛かった。気づけばわけもわからず学校へ足を向け、馬鹿長い坂を上りながら、ひたすら涙を流していた。何で泣いているんだっけ。そうだ、SOS団の皆に、皆を集めよう。皆と言ってもみくるちゃんと有希の2人だけだけど。3人寄れば文殊の知恵、何も怖くないわ。意味が違ったってなんでもない。それにしてもどうしてこんなに悲しいんだろう、何かを失ったような、気がする。
なれ吠ゆるか/そして奪われていった。白昼。
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