毎年何も考えず祝っていた。
何も考えず、と言うのはプレゼントや演出のことではなくて、ただ今年も彼を祝うことが出来る、だとかそういうことで。
こんなこと予想も想像もしていなかった。呆然と立ち尽くす。






2週間前。そう、数えれば2週間だ。
もうそんな時期なのね、と思っていた。日々鍛錬や任務に終われ、季節や行事なんて多少気になるけど本腰を入れてするほどの暇も無くて。
けれど、その日だけは。その日だけは、当たり前のように皆(皆と言っても一部の人たちだけど)仕事をやめて。ぱったりとやめて。休日のようにひっそりと部屋に篭り、彼をどうやって祝うか考え。
そうすることが当然だと思っていた。

「シロちゃん」

上ずった声が喉から零れて、急いで口を手で覆った。
それから振り返った綺麗な顔を見て、そしてその顔がひどく憔悴しているのを見て、目を見開く。

「乱菊さん」

「雛森…」

呼吸がうまくできなかった。
何を考えればいいのかわからなかった。
気の毒、と表情を浮かべればいいのだろうか?何か労わりの言葉をかければいいのだろうか?それとも泣き崩れればいいのだろうか?彼女は笑っていなかった。
よろよろと足を動かす。本当はきびきびと歩いたつもりだった。足取り重く、伏せられた体の元へようやくたどり着いたその瞬間崩れる。

「雛森!」

鋭い声にびくりと肩を浮かせた。気付けば脇の下に腕が差し込まれていて、支えられている。「あ…」呆然と呟いてそれから必死に体に力をこめた。なんだかまるですべてが他人事のようだ。
時間がゆったりと動いている気がした。それと同時に、耳にきいきいと耳鳴りのようなものが。頭が痛い。

「……乱菊、さん」

「…なに」

いつもは余裕ある笑顔で対応してくれる彼女が、珍しく疲れた様子で返答した。
なんとなく、それだけで。それだけで理解したのだと思う。これが軽いものじゃないって、笑顔を浮かべていい場面じゃないって。

「シロ、ちゃ……」

「日番谷隊長」

またも珍しく、彼女から入る訂正。それもそうだと思う。いつも訂正するのは今こうして寝台に臥せっている彼なのだから。
日番谷くんは、とまるで抵抗のように言った。眉を顰めた彼女はそれ以上何も言わない。続く言葉を待っている。

「どうして」

「あんた、何も聞いてないの……」

うんざりしたように髪をかきあげた。
それから長いため息。寝ていないのだろうか、目の下にくっきりと隈ができている。彼が運ばれたのはいつだろう、私はそれすら知らない。
まるで私の心の中を覗いたように、彼女は片目を薄く閉じた。言うのも億劫だと言わんばかりに再び目を開く。

「…運ばれたのは2日前。五番隊の下級死神遠征の監視役で派遣。本来ならそれはあんたの仕事。他の隊長格が多忙のため一番手の空いていた隊長が行った。隊長に不満を持った数人の下級死神が虚の餌となる薬をばらまき、誤って大虚まで出た。その上弱小の虚との戦いでそいつらの浅打は使い物にならなくなって、現れた虚は全部隊長が倒した」

息継ぎをほとんどしない説明に喉から呼吸が取り払われたようだった。
本来なら私の仕事――そうだ、そんなことも言われた気がする。けれどその日は、その日は――私は緊急で有休を取って、その理由は、理由は――彼の誕生日に、何をあげようか、と、

追い討ちをかけるように彼女は、鋭い目を私に向ける。それからつい、と視線を剥がして寝台に眠る彼を見た。


「隊長は意識不明の重体。快復の目途は……立ってないわ」