目が覚めるとそこは暗いくらい部屋の中だった。
見たことも無い装飾品に触れたことも乗ったこともないベッド。白いシーツに茶色いしみや赤い血痕のようなものが見えた気もするが気にしないことにする。それよりも頭の中を占めるのはどうしてここにいるんだという疑問。
寝る直前に飲んだコーンスープが喉元から逆流してきそうで気持ち悪くて口を押さえた。部屋の中は暗い上に汚いものだから今更ここに汚物が増えたところでかまやしないと思えたけれどそれはちょっと困る。見る限り部屋にあるドアは鍵がしまっているし、小窓すらない。ちょっと待てここでどうやって息すんの、と思いながらもゆらゆら立ち上がってドアノブを握る。がちん。ああやっぱり閉まってやがる。
どうしようかなぁ、なんて口にして、困ったように苦笑した。本当に困っているのかわかりづらい表情であると自分でも思うのだけど。
腕にしていた時計すらどこにも見当たらなくて、喉に巻いていたマフラーすら見つからない。どうしたものかな、とおもいつつも心の中は存外落ち着いているもので、いざとなれば部屋のドアくらいイノセンスで――壊そうと思っていたのだけど、そのイノセンスすらどこにも無かった。
あ、あ、あ。やばいかも。くらくらする頭をなんとか支えながら、このノブの鍵を探す。どこにあるんだろう。
ピンのようなものがあれば形を変形させて鍵を開けることくらいできるのだが、そんな小物も見当たらない。部屋の中に存在しているのはベッドだけ。クロゼットもサイドテーブルも何も無い、簡素な部屋。
そもそも俺はどうしてこの部屋に入れられていたんだろう?ていうか、アレンはどこなんだろう。真っ先に考える。一緒にいたはずなのに。どうして?どうして。
腕を組んで考えながら、とりあえずアレンの無事を祈った。早くここから出て行かなくちゃな、って。どんどんと空気の濃度が増していく気がする。二酸化炭素だと俺は生きられないぞ。早く出ろ出たい出なきゃ。ゆっくりベッドに座り込む。背中から倒れこむ。
何してんの俺、早く出なきゃ、って。
頭が痛い。空気が薄い。すっごいすごい山の頂上が空気が薄くて苦しいみたいに、苦しい。気持ち悪い。早く出なきゃ、って思いながらも体は動かない。どうしようか。
かすんできた視界の中に映りこんだのは天井、で。もう気力すら出ないから仕方ないとどこかであきらめた。
そのときだ。ラビ、ラビ!って、聞き慣れた声が耳に入り込んでくる。次いで、ドアを激しく叩く音。ラビ、ラビ、ラビ。どうして。どうしたの。あけて。――ああ、アレンだ。
「どうしたの、早くあけて!ラビ、ラビ!」
ごめん、何してんだろ俺。って、ちょっと待てよ。そっちからあけられないの?鍵が閉まってんだって。あれ?
ゆっくり目を開いて閉じて開いて、それから苦笑した。
ちゃり、ん。ポケットの中から出てきたのはアンティークの鍵。ああここに出口は用意してあったんだって、
(俺を殺したのは俺だ)
thanks:SBY
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