「先ず、お前は愚かな奴であった。死す時も生きていた時も何時でもあれ、絶えず笑顔を浮かべて居た。其の笑顔の何処に真実があったと言うのであろう。今俺は猛烈な怒りを感じて居る。再び、三度口にしてやろう。お前は愚かな奴であった。吾が手でこうしてお前を殺めても尚、穏やかさ等戻らない。戻って来ない。その愚かさにさえ、俺は怒りを感じてやまない。どうしてお前はこうも、愚かなのであろう。死して尚俺の心に住み続ける、強いて言うなら寄生虫のような奴だ。唯如何してなのか、お前が死んで埋没され骨さえ見ることが出来なくなった今、俺は猛烈に寂しさを感じて居る。猛烈と表現してしまえば其れは途端に似非臭くなるのだが、思う限りこの感情を表現できる言葉が之の他に見つからないので或る。さて、如何してくれるか。困った。非常に困っている。其れと言うのも全てはお前の所為だと俺は思って居る。と言うより、確信して居る。何を言わずとも、其の通りなのだろう。如何やら、部下に聞けば、この手紙はお前の棺の中へ入れると言っているので、俺の思いつく限りの罵詈雑言を添えよう。心の底から、お前に届けば良いと思って居る。有難く此の言葉を聞き届けろ。馬鹿野郎。狐目、絶倫、鬼畜、間抜。畜生、格下、不能、無能。木偶の坊、役立たず。もっと罵ってやりたいが、時間が無い。もう直ぐ部下は出掛けると言う。何故俺が墓に出向かないか、知りたいか。恐らくお前は知りたがるのだろう。目に浮かぶようだ。其れは、言わない。言わないでおこう。言えばお前は怒るであろう。悲しむであろう。其れ程酷い理由である。だから何も言わず手紙を終えよう。…嗚呼、最後に壱つ。言い忘れていた。俺はお前が嫌いだった。愛情の裏返しで或るとか、そう言う甘いものでは無い。唯純粋にお前が嫌いだった。さて、お前は此の言葉の真意に気付く事が出来るだろうか。気付かなくとも、何処かお前の中に此の言葉は残るのだろう。今直ぐでなくとも、何れ気付けば良い。そして、悲しめば良い。これ以上俺に言う言葉は無い。だから、手紙を終わる。別れの言葉は、言わない。」
ただ文字に埋もれて、ひっそりと絶えてしまえば良い。
文葬
thanks:選択式御題
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