「危ないっ!」

 彼の頭上近くにいたシャドウを撃ち飛ばす。撃退し、彼の援護をして、怪我がないか確認した。
 今日はたいした用ではないからと、探索は二人きりだ。僕は来たくなかったが、前に頼まれたものが多分ここにあるからと秘密基地へ連れて来させられた。よって別に他意はなく、この秘密基地が僕によってつくられたものだから、案内役として二人で来ただけだ。
 それでももしかしたら、彼が僕と二人きりになりたかったのではとか、そういったことは考える。以前言われた、いつまでももやもやとすることの解決もできるのではないかと、淡い期待を抱いてみる。
 でもあれは勘違い、あるいは夢だったのではと思うと、こちらからは決してその話題が出せず、いつまでも胸の内が不快感に満たされていた。はっきりしたいことは、はっきりしたい。彼だって、煮え切らないことをいつまでも引きずるのは好きではないはずだ。

「助かった。本当、直斗がいると嬉しいよ」

「え」

 手の甲が切れていたので絆創膏を貼っていると、おもむろに彼が呟く。何の脈絡もなく。驚いてどういう意味ですかと反射的に問いかけると、彼は笑った。

「好きだなあってこと」

「え」

 とたん、心拍が上がる。たぶん、どきどき、している。彼に手を貸して、彼が起き上がったことを確認したら、もう彼のことが見えなくなった。恥ずかしくて、まともに顔もあげられなかった。帽子の下から見えるところすら、緊張して、姿をとらえることができない。
 それでもたぶん、僕も同じ気持ちだと思うんですけどと、それだけを伝えたくて口を動かしたけれど、どうにも勇気が出なくて、おまけに声も出なかった。と思っていたら彼は、

「あ、やった。落としたぞ」

「え」

 まるで先ほどのせりふなどなかったと言わんばかりにあっけらかんと、先ほどのシャドウが落としたものを拾い上げた。その素材が一体何なのかはわからないが、恐らく学内で誰かにこういったものが欲しいと依頼を受けたのだろう。それはわかる。ときどきそういうことをやっていると聞かされたことがあるからそれはわかるが。

「じゃ、帰ろうか。目的達成だ」

「え」

 あ、はい。
 いや、もうそれしか続けられなかった。何だったんだ今のは。
 今のはというか、さっきの言葉は何だったんだ。そんなぽんぽん好意を口に出されると、それがどういった意味なのかは差し置いて、非常に落ち着かない。しかも彼がこういった、はっきりとわかる好意を誰かに伝えているというところを見たことがなく、非常に珍しいケースなのでそれにもまた動揺する。
 けれど彼が一切先ほどのことを言わないので、また、僕も言えなかった。