crime





「僕の髪の毛、ですか」

「うん。ちょーだい」

片手を伸ばして頼んでみると、向かいに座っていた彼はなんだか見知らぬ人間、それも詐欺師かなにかを見るような瞳でこちらをじとりと一瞥した。
迫害されているような気分になり、ついと目を反らした。しかし掌はそのまま。

「何でですか?」

まあ当たり前の質問だ。また視線を戻して、欲しいから、と素直に口にする。素直さがウリなものだから。

「欲しいからって、……ラビ、大丈夫ですか?」

いっそ不審を通り越して心配まで行ってしまったらしい。
心配げに眉を寄せて、その白い手を伸ばしてくすんだ赤色に乗せる。くしゃくしゃと撫ぜられた。
それからこつりと額を当てられ、温度を確認される。熱は無いようですね、と至極真面目に言われるものだから本当に困った。

「あのさ…深く考えなくてはいいんだけど、」

詰まったように言葉にすれば、きょとんと目を丸めて首をことりと傾げる。どちらにせよ意味は伝わり辛かったらしい。
仕方ないので手を伸ばして、白い毛先に触れた。
途端にびくりと震えて彼は身を引いた。そして恐々目を細める。まるで殴られる直前のようだ。

「殴んないよ」

ぽつりと呟けば、はじかれたように顔を上げる。

「…ごめんなさい」

何を謝る必要があるのか。今度はこちらがきょとんと目を丸めた。
それから今度は至極優しく、触れて、軽く引っ張る。人間の体は勝手に指先が震えるようできているから、その振動が伝わったらしい。毛先がふるふると震えた。

「んにゃ。別にいいさ」

そして思う存分毛先を弄ぶ。
その、子供のような行動に彼はようやく顔をほころばせた。

「欲しいなら切りますよ、鋏ありますか?」

「んー、やっぱいいや」

「?…そう?」

毛先から手を離し、不思議に目を丸める彼の小さな頭を抱きしめる。
くしゅりと後頭部を固定して、胸に封じ込めた。

(俺って罪深いさ)

髪の毛の香りにくらくらする。
いっそ、このまま死ぬことが出来たら。それができたらきっと。





(俺の罪)

(この白さえも独占したい)


…なんて、幼稚な。