あれが本当の誕生日ではないことを知っている。





聖なる夜と称されるその日はなんだかとってもロマンティックであり、恋人たちにとっては絶好の思い出作りの日であったり、仕事に追われる人たちにとっては憎らしき日であったり、金に困る人たちにとっては絶好の稼ぎ時であったり。
昔は絶好の稼ぎ時でしたねえと遠い目をする齢15強の子供を見てため息をつきたくなった。

「おにーさんはその妙に諦観した雰囲気が恐ろしくてたまらねぇさ。な、アレン?欲しいもんあったら言ってみ?」

例えばそれは、言うならば同情だ。
だって、考えてみてもほしい。幼い頃から両親がおらず、父親代わりも亡くしてあまつさえ悪魔と同等の男の下で修行し子供の夢とかそういうファンタジックなものから隔離された世界で生きてきた子供を目の前にして、かわいそうと思わない人間なんているだろうか?
否、いないはず。それは最早確信にも近かった。
だから別に同情の一言でもかけてもいいはずだった。寧ろ、かけなければならないと思っていた。しかしどうだ、その言葉を受けた子供は明らかに迷惑といった表情を顔に貼り付けていけしゃあしゃあとこう言い放った。

「言ったら絶対くれるんですか?じゃあ平和な世界が欲しいとか言ったらすぐにでも伯爵滅してきてくれるんですか?あとこの教団よりも大きいケーキがほしいとか言ったら作ってくれるんですか?ジェリーさんには頼まず誰にも協力を得ず一人で。無理ですよね、とりあえずその同情に満ちた瞳やめてくんない」

なんだか途中から敬語も忘れた風だ。いい加減泣きたくなって瞳を親指と人差し指でそっと覆った。
コーヒーをすすり、にがい、と小さく口にしてミルクと砂糖を足す子供を見下ろす。

本当はもうひとつ知っていた。この子供が望むのはそんなものじゃないって。望みなんて何を言ったって叶わないって知っているって。ほんとにほしいのは、

ほんとにほしいのは、在りし日の彼の父なんだって。