「アレンが俺の妹だったらどうしたかな」

急にそんなことを口にした彼に、アレンはきょとんと目を瞬かせた。
それから手にしていたチーズケーキをとりあえず口に含み、心持ち早めに租借してからゆっくり呑み込む。それから「んん?」と聞き返した。
彼の突飛な発言は今に始まったことではない。けれど、今回はあまりにもアレだった。

「ぐ…具体的には」

次のケーキに手を伸ばし、考えながらも紅茶を淹れたラビの手からカップを受け取る。自分でも何を聞いているのか少し謎だった。しばらく無言だったラビは顔を上げて、首をことりと傾ける。

「えーと、アレンがもし俺のきょうだいだったら、相当愛でてただろーなーって話」

「………………」

最早何を言えばいいのかすらわからず、とりあえず半目で見つめてみる。
紅茶が冷めないうちに飲んでしまおうとラビの話をスルーして喉にあたたかな液体を流し込んだ。ザッハトルテをフォークで切り分けた後、小さなかたまりを口にする。
歯でかみしめると、甘い味が広がった。「アレン、おれのはなし聞いてる?」ちょっと悲しい目をしたラビが話しかけてきたがまた流してひとくち、口に運ぶ。
しばらくもごもごと口を動かした後、フォークを皿の端に置いて顔を上げた。

「僕はラビの妹じゃなくてよかったと思いますよ」

「なんで?」

まあ様々な原因は思い当たるが。
次期ブックマンの妹なんて嫌か、と思って苦笑したところで、だって、とアレンが口を開いた。


「だからラビと恋できたんだもの」


「…………………」

急いでマフラーを押し上げて口元を隠し、腕を組んでテーブルに突っ伏した。ラビ?とやわらかな声が聞こえるが聞こえないふりをする。耳も赤いのはばれているだろうから、さらにマフラーをずり上げた。息ができない。胸が苦しい。嬉しい。嬉しい。

「…それ、反則さぁ………、アレン……」

アレンがどんな表情をしているかはわからなかったけど。
数秒後、ふっと空気が緩み、またフォークを動かす音が響いた。