背中を預けた布団はいつもより温度が冷たい。
それは外の気温が冷たいからか、自分の体が温かいからなのか。それとも両方なのか、理解できずにぼうっと瞬きを繰り返す。
ただ静かに、ただ緩やかに。時は流れていき、すべてのものも流してしまう。考えたくも無い絶望と言葉に心臓がひくりと引きつり、悲鳴を上げる。
外の暗さに悲壮さえ覚えた。

『なんや、眠れんの?』

窓際から聞こえる声。
ふい、と振り返れば、そこには見慣れた彼の姿。
窓の桟に腰を下ろし、月光を受けながらこちらを見ている。「…市丸」呟いて、思い出したかのように項垂れた。

『眠らんと、アカンよ。明日もまた忙しいし』

「…っせぇよ、仕事しねぇくせに…」

顔を伏せたまま言葉を続ける。
足元に広がる影と、月光。手を伸ばせばすぐ届く距離。手を伸ばさないのは、なぜか?

『言うてキミも最近、仕事してへんやろ』

「………………誰のせいだと思って、」

怒りに眉を寄せて顔を上げれば、そこには誰もいない。
窓も閉められていて、桟には埃の積もったあと。月光なんてかけらも入り込まない室内は真っ暗で、何も見えない。誰もいない。

「…………」

長い息を吐いて、瞼を伏せた。ただ耳の内で鳴り響いていた声は幻想だったのだと、そう、夢だったのだと、思う。
こうして毎夜、お前は俺に会いに来ては、俺に絶望を味わわせるんだ。

「馬鹿野郎…」




ンソムニア