ぱらぱら雨が降っています。今日は曇るだけと聞いていたので少し物悲しい気分です。雨は神様が泣いていると言うそうですが、今日は神様は何か特別悲しいことがあったのでしょうか。それでも雨の量は少ないのでそこまで悲しくなかったのでしょうか。僕には神様の気持ちなんてわかりません。ねえ、わからないでしょう。僕は隣で大人しく眠る彼に問いかけるのです。ねえ、わからないでしょう。再び。
隣に座る子供は黙々と空を見上げています。俺は生憎空を見上げるなんて退屈以外のなにものでもないと認識しているので特に何も考えないまま無視を決め込むことにしました。目を瞑って安定した呼吸をしていればそれだけで人間は寝ていると認識されるというものです。眼球の動きでもわかるそうですが、俺は片方の目を隠しているので余計に眠りを疑われません。演技を続けます。子供は俺に問いかけて、まるで俺が起きているように再び問いかけます。ねえ、わからないでしょう。ええさっぱりわかりません。何がなんだかわかりません。
僕は彼が眠っているからこそこんなどうでもいい、それこそ明日明後日明々後日のご飯だとか朝目覚める時刻だとか星の数だとかさよならの数だとかどうでもいいことをべらべらと口にしているのです。ねえあなたにはわからないでしょう神様の涙の理由。ちなみに僕もわかりません。ただ彼は物知りですので、わからないなどということはプライドが許さないでしょう。だから僕は彼にわからないことを、彼が知りえないときに問いかけるのです。答えなど期待していない。
子供は呟きました。ねえあなたにはわからないでしょう神様の涙の理由。さっぱりですとも。しかし俺は生憎子供の中で物知りおにーさんという地位に確立していますのでそんなこととてもじゃないが口には出せません。子供の夢を壊すのはいただけないというせめてもの配慮です。子供はそんな眠っている様子の俺に安堵したのかべらべらと次々に口々に俺には到底答えられないようなことを問いかけます。1年後の明日の天気、1年後の明後日の食事、1年後の俺たち。そんなこと俺が答えられようものなら俺はブックマンなど放り出してすぐさま占い師とでも名乗るでしょう。俺は答えられないからではなく、答える理由が無いから黙るのです。
僕は気付けば泣いていました。隣にいる彼は相変わらず眠っているようです。ここはたたき起こしてでも僕の涙を拭ってもらうべきでしたが、生憎僕は彼の中で優しい人間にカテゴリされているのでそんな夢をぶち壊すようなことはできませんでした。苦し紛れにあなたに聞いた1年後の明日の天気、1年後の明後日の食事、1年後の僕たち。きっと彼は答えられないのでしょうね。答えられないなりに笑うのでしょうね。わかんないけど、きっといいほうに向かうさ。なんて底抜けに明るいあなたの声が浮かびます。
涙の流れる音が聞こえました。正確には落ちる音です。俺は気付けば目を開いていました。けれど隣の子供は顔を伏せていたので表情は窺えません。ので、俺は再び眠ることにしました。生憎俺は卑怯なのです。子供が泣いている理由など知ろうとも思わないのです。知ったところで俺に何ができると既に自問自答しているからです。何も出来ないからです。ただ俺はしばらく経って目を覚ましたふりをして子供の赤く腫れた瞼をそっと指先で撫で、呟くのです。
きっと彼は目を覚まし、僕の腫れた目を見て驚くのでしょう。それを想像しただけで妙に笑えてしまいました。彼は優しい指先で僕をそっとあやしてとりあえず僕に笑顔を浮かべさせようと試行錯誤してくれるのでしょう。ねえこの涙の理由知ってますか。生憎僕にはわからないんです。ただそれが、だれのものでもない何かのために流れるのだということしか。きっと僕は呟きます。
|