彼は逃げ切った?逃げ切った?あたしは岩陰に隠れてひゅうひゅうと口の端から零れ出る呼吸を押し殺す。斬りつけられた真っ赤な腕を唇に押し付けて呼吸を隠す。ひゅうひゅう。それでも多少零れてしまう呼吸を必死に呑み込みながらあたしは、あたしは、あたしはゆっくり振り返った。馬鹿みたいに恐れながら怖がりながら。あの人は逃げてくれた?ねえ無事なの?あたしの片手におさまる程度まで粉砕された刀はもう使い物にならなかった。鬼道を使ってこの現状を打破するにも自分に霊力があまり残っていない。自分よりはるかに強くてかっこよくて潔くて強いあの人はどこへ逃げた?足音がしてあたしは泣きそうになりながらまた体を抱きしめた。足音が通り過ぎていくいとも簡単にまるであたしが道端の塵程度にしか感じられないほどはやく。ああよかった気付かれなかったじゃあきっと大丈夫あの人は大丈夫だ。ひゅうひゅう。しばらく経って音がしてあたしの折り曲げた足の上になにかが落ちてきたぼとり。その落ちてきたものは妙にいきもの臭くて生暖かくてどこか冷たかったそしてあたしの掌を著しく赤色に染めたそしてあたしの脳内に結びつくある人を髣髴させただめだだめだだめだだめだ、
「なぁ、隠れとるつもりやったん?“ ”」
凍えそうに冷たい掌を握ってあたたかな体を抱きしめてあげた悲鳴を聞きつけてはやく誰か、
凍えすぎた
「ちょぉっと、はやすぎたなぁ。」
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