まさかこんなところで再び出会うとは。
これは幸運なのだろうか。いや幸運ではあるのだろうけど自分としては不幸も僅かに感じるというか。
きっと向こうもそう感じているのだろう。目が据わっているし、何より表情が自分の顔と同じように歪んでいる(見たわけではないがきっとそうだ)。
皮肉気に唇の端を上向かせると、向こうも同じ動作を繰り返した。
自分と向こうの視線が絡み合い、複雑な感情をぴんと張り巡らせる。勘のいい人間はとっくのとうに気付いているだろう。
町中を歩き回る、恐らく帰路の途中を行く人々。それが何なのかなんて全く気にもしない。
ようは巻き込まれたやつらが悪い、と言うことで。

「―――――ッ!」

息を一瞬吐いて間合いを詰める。ッツ!と頭の上で声が聞こえて、固い感触が腕に痺れとして伝わってきた。
やはりというか、木刀で止められていた。
止められてもそれは元から解っていたことだから、すぐさま次の行動に入る。押し戻して後退った。
わああと周りから人の悲鳴のようなものが聞こえる。まあいきなり町中で戦闘が行われれば逃げるのが常と言うものだろう。
お陰で場所が空いて戦いやすくなった。また口の端を吊り上げると、やはり向こうも同じように笑う。
似たもの同士という言葉が恐ろしいほど似合っていた。気持ち悪ィや、と呟くと、こっちもだよと低い声が返ってくる。
笑うと言う行為がどれだけ愚かしいものかわかっていた。特に自分とあの人は。
勿論この人物相手以外ならそんなことを思わない。ようは相手が問題だという事だ。
人を横倒しにして2人分ほどの距離で、互いに見合う。見詰め合うと言うほど親密ではないし、にらみ合うというほど険悪ではない。

険悪な気分ではあるけれど。


「まさかこんなところで戦うとは思ってませんでしたぜィ、旦那ァ」

「俺もよ。寧ろもう会うことは無いと思ってたんだよ、お前とは」

はっ。
つくづく考えの似る人だ、と思った。
向こうがぶらりと木刀を下げたので、こちらも同じように下げる。傍から見れば戦いをやめたように見えるのだろう。
けれどそんな気ちっとも無かった。恐らく向こうも同じだ。気を抜けばやられる。理解していたので、くっと口角をまた吊り上げた。

「お前の笑顔、怖ーよ」

全く怖そうに無い表情でそう呟かれ、また笑ってしまった。
そうか、怖いときたか。昔から仲間内に腹黒い腹黒い似非臭いとか言われたことはあったが、怖い。
そうは言っても、怖がってはいないだろう。向こうはただ客観的なことを言っただけだ。

「そりゃありがてェや。俺は心を許した人間にしか笑顔を見せないもんでねェ」

「ほー、つまり俺には心を許していると?」

飄々とした態度で返すと、まねたように飄々とした雰囲気で返された。本当に面白い人だ。
はっ、と鼻で笑うと、唇を引き結ぶ。それでも口角は引き上げたまま。


「冗談じゃねェや」









第二撃。

ひゅんっと飛び上がり、上から真剣を振り下ろした。
やはり上からの力では先ほどとは同じように行かないらしい。くんっと一瞬浮くような感覚に、力の無い押し返しが返ってきた。
恐らく本気で戦えばこの場所は壊滅してしまう。それだけは避けねばならないな、と笑顔の奥で凄惨に思った。

「旦那ァ」

また同じ立ち位置に戻って見合う。
いや、今は感情が露出しているからにらみ合いか。
呼ばれて向こうは「んぁ?」と返事を返した。
こちらの言葉を待つように、面倒臭そうにこちらを見ている。

「俺は、アンタを殺したくてしょうがないんでさァ」

にこり。
勿論心を許すわけの無い笑みを返すと、ふぅん、とさして興味のなさそうな顔がこちらを向いた。
こちらも別段興味を持ってほしくて言ったのではない。寧ろその反応に喜びさえ感じたほどだ。
真剣を鞘に押し込み、にやありと再び笑う。向こうも木刀を腰に下げると、唇の端を持ち上げた。

「おー、やれるもんならやってみろよ」

その挑発的な声に、全く苛立ちは感じない。
自分が言ったのは希望であって、宣戦布告ではないのだから。
笑みにしてその言葉を返すと、逆に向こうが声を上げて笑った。

「俺はお前を殺そうと思ってる」

「へェ」

これは予定だ。
希望と予定は全く違う。随分自分は向こうの中で嫌な存在に指定されてしまったのだな。それは自分も同じだけど。
そう考えてくるりと背中を向ける。
向こうも多分背を向けたはず。じゃり、と遠ざかる足音が聞こえた。


(やれるもんなら、やってみればいい)







遠くで、向こうの人間を呼ぶ声が聞こえた。