奇妙な子供だと思った。
馬鹿のように甘ったれた面をしていると思えば、眉間に皺を寄せて極端に冷酷な面へ変貌する。
かと思えば、見てて苛苛するほどに部下に優しく接し、同情するほど厳しくする。
その割合を数値に表してみれば算用数字で2:8。ほぼ冷酷な面が埋め尽くしているのだが、飴の部分が印象的過ぎるせいかきつい印象は与えられない。全く持って人を使うのが上手な子供だ。



隠し事が上手だと思った。
長時間雨に打たれてひとりで鍛錬を続けていたかと思えば、何事も無かったかのように執務室に戻って仕事をする。風邪を引いて誰もいないところでくしゃみと咳をしているのに、どうやっておさえているのか執務室では呼吸の音すら聞こえない。
心配させるのがいやだというわけではなさそうだった。どちらかと言えば、心配されることが煩わしい。そんな風体だ。



不器用だと思った。
書類に書かれる字や机の上に積み重なった紙は驚くほど整っているというのに、自分の事に関してはひどく不器用。
隊首会の時刻や業務終了時刻はきっちり覚えていても、自分の昼食や夕食の時間は忘れていて食いっぱぐれ、かといって中途半端な時間に一人で抜けて食事などはしない。
時々、食べることを忘れては何も食べないまま次の食事時間を待っていたようだ。
だからあんなに細いのか。







綺麗だと思った。
透き通るようなその瞳と肌と、銀に光る髪の毛が。
自分のそれも同色であると気づいていても、それとはまた違った、透明感のある髪の毛。宝石のような翡翠色。病的と思えるほど白く細い肌。
けど、触れたら恐らくひどく冷たくて骨っぽくて痛々しい。そして、きっと柔らかい。
手に入れたいと思った。









怒鳴りつけてやりたいと思った。
ひたすらに自分に関心が無いのか、無頓着な子供に。もっと自分を大切にしろと、たまには他人を頼れと、まるで感情のある者のように怒鳴りつけてやりたくなった。
今までは一定の距離を置いて何の感情も持たずにただひたすら見ていただけの自分が、近づいて満足いくまで言葉を囁いてやりたいと思った。
矛盾を抱えることすら珍しく、できればこんな感情とは関わりたくなかった。
言ってやりたい言葉は簡単で、明瞭で、かつ複雑だ。恐らく子供に言ったところで首を傾げられるだけだろう。
だから言わなかった。(というわけではなくて、本当は言いたくなかっただけだった。言えばきっと自分も泣く。漠然としたそんな確信を持っていた。)














泣き叫べよ