たった数秒の出来事だ。



残暑のこの季節、食欲だとか睡眠だとか読書だとかで囃し立てられているが気に食わない。
とりあえず適当に当てはめているだけだろう。そんなもの、別に春でも夏でも冬でもできる。ちなみに言うなら、自分はスポーツは秋より夏だと思う。
それは関係ないとして、今頭の中に流れる言葉は「どうしよう」この一言だった。くったりよりかかる小さな頭が呼吸で上下に揺れる。心底心臓に悪い。
ふーふーかすかな寝息が耳と喉元に届くたび、理性がはちきれそうになった。くつくつ、喉元が震える。この震えはどこから来るのだろう。
何かを思い出すような呼吸だった。そうだ、炭酸水を無理矢理飲み込んだときのような、喉元を何かが圧迫するような心地。

「せ、な、」

セナ。名前を呼んでもかすかな身じろぎすらしない子供に一瞬舌打ちしそうになりながらもがんばれ俺の理性!と根性で踏みとどまる。ここでいただきますでもしてしまえば次の日からはもう目すらあわせてくれないだろう。

「セナ、おきて」

つい舌足らずになってしまう自分を心底恥ずかしいと思う。しゅわしゅわ、喉が破裂しそうだ。顔に熱が溜まる。
まだ生き残りの蝉がじわじわと静かにないていた。それを耳の中に受け入れながら、そっと目を閉じる。キスくらいなら許されるよな、とか勝手なことを考えて唇を寄せた。






ラムネの呼吸









thanks:SBY