人を斬る苦痛っていうものはとうに通り過ぎた通過地点だ。
そこを通り過ぎるまでにうだうだしていると昇格できない。そんな甘ったれたことを言っている人間がそもそも人を裁けるわけが無いのだ。
人を裁くということには、即ち並大抵以上凡人以上の精神力が必要とされる。誰に対しても平等であり、誰の意見にも耳を傾け、且つ自分の意識で全てを決めるのだから、そもそも人を裁くことに躊躇う人間が裁ける人間の役回りを出来るはずが無い。
俺はいつ頃通り過ぎたのだろう。昔の事だったような気もするし、随分最近のような気もする。どちらかと言えば昔だけれど、俺より上の立場、認めたくないけど土方さんとか、近藤さんはもうどちらかと言わずに昔通り過ぎたのだろう。
土方さんのように見た目どおりであれば、裁かれる人間にも覚悟が出来るのかもしれない。ただ、近藤さんが少し厄介だ。期待持たせな瞳をする。もしかしたら助かるんじゃないのかと一筋の希望を持ったその瞬間、斬り捨てられると一緒だ。
俺はどちらにもつかないだろう。土方さんほどわかりやすい表情をしているわけでもなし、近藤さんのように期待持たせな言葉を言うでもなし、飄々としていてつかみどころが無いから、ある意味一番たちが悪いといわれた。
それはそれでこちらとしては面白いのだが、厄介だと思われているのならばあまり嬉しくない。俺は決して嫌われたがりではないから(好かれたがりでもないけれど)、できることなら好意をもたれたいと思って――話が脱線した。まあとりあえず、俺たちみたいに人を斬ることに対して苦痛をいつまでも引きずらなくなった奴らは、次はどうすればいいんだろう。
「沖田さんは、もし僕や銀さんや神楽ちゃんが過ちを犯したら、」
突然横から聞こえた声にぱっと顔を上げた。
そういえば隣にいたな、と思い出しつつ、視線を向ける。穏やかな黒い瞳がこちらを見ていた。この少年は、斬ったら中途半端に柔らかそうだ。柔らかくて手元にあまり感触が残らないものより、ずっとたちの悪い。
「僕たちを、斬りますか?」
ほぼ無意識に刀に手を伸ばして、鯉口を切る。かすかな音に気づかない少年は、いや、気づいているのかもしれない。微笑を浮かべたまま俺を見ている少年は、まるで俺を試しているようだった。俺の勘違いかもしれないし、思い違いでもあるかもしれない。けれど、いつくしむような、誘うような瞳が、斬るのか?とでも問いかけてくるようで。
「…斬るさ」
「ふふ、さすがに早いですね」
2秒と経たず返事をしたのが面白かったのか、けらけらと笑い出した少年を見つめながら、俺は自分自身を疑った。どうして、どうして少しの間でもあけてしまったのだろう。以前なら、即答できたはずだ。語尾に被さるほどにはやく返事が出来たはずだ。どうして俺は一瞬、考えたのだろう。どうして躊躇ったのだろう。問いかけてきたのが、この少年だから?そんなはずは無い。だって俺は、この少年より大切であるはずの近藤さんから同じ質問をされれば、即答するはずだから。
「…沖田さん?どうしたんですか、沖田さん?」
耳に声が入ってくるような気がしたけれど、俺は自分自身の叫び声でそれを掻き消した。言葉にして消したわけじゃない。心の中で絶叫した。声にならない悲鳴がこだました。体の中にわけのわからない感情がひたすらに反響して反響して、
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