リナリー、必ず帰ってきますから。そう言ってアレンくんは笑った。
そのときの私は、何か直感のような、シックスセンスといえばいいのか、まるで神様がおりてきているかのようにビビビッとくるものがあって、ああアレンくんは帰ってこないと、そう思ったのだ。
「行かないで、いかないでアレンくん」
「リナリー…?」
大丈夫ですから待っててと、一言。
小さな子供にあやすかのように、諭すかのように呟いたアレンくんを見て、私はどうしてか無性に泣きたくなってきて。ああそうだ、これはシックスセンスでも何でもない。アレンくんが、笑っているからだ。いつも笑っているけれど、ちがう。今回は、誰から見てもわかるくらい、悲しい笑顔をしていたからだ。
惜別の笑顔と名づければわかりやすいのかもしれない。どうしてアレンくんは、そんな下手な嘘をつくの?――でもきっと、僕はこれから死にますといわれても、私は困るだろう。
「行かないで。死なないで、アレンくん」
「何言ってるんですか、大丈夫です、リナリー、大丈夫」
その声音こそ大丈夫じゃなかったのに。
半ば振り払われるように手を外されて、私とアレンくんの間には少しの溝が出来た。それを、埋めることすら、私には出来なかったのだ。行っています、帰ってきますから、と、また惜別の笑顔を浮かべて。
馬鹿ね、アレンくん。そんな言葉で私が簡単に頷くとでも思ったの。しつこいと思われてもいい、嫌われてもいい、アレンくんには生きていてほしかった。手を伸ばしてアレンくんの腕を掴もうと思っても、するりと抜けられる。
もしこの場に私以外の誰か、そう、例えばラビがいたのだとすれば、きっと彼も一緒になってアレンくんを引き止めてくれただろう。でもラビがいない今、引き止めるのは私だけ。いつの間にか大きくなってしまった背中を見送ることが、私には出来なかった。
「リナリー、やくそく」
「約束、」
「やくそく、しましょう。絶対に帰ってくるから」
「…」そう言って私の指に指を絡めたけれど。
ねえアレンくん、あなた手が震えていたわ。本当はそんな約束、最初からするつもりなんて無かったんでしょう?どうせひと時の時間をこらえることができれば何でもよかったから、そんな約束したんでしょう?ねえアレンくん、そんな泣きそうな顔しないで。私はあなたを、あなたを本当に大切にしたいの。一緒にいたいのよ。なのにどうして、
離れていこうとするの。
「…それじゃあ、リナリー」
「アレンくん!」
「だいじょうぶ、だから。……いってきます」
「―――アレンくん!!!」
私の叫び声にどれだけの力があったのかな?
せめて、少しの後悔を残すくらいの力はあってほしかったな。
ねえアレンくん、あなたの嘘、いつもは見破ることができなくて、いつになっても騙されたきりだったのに、今回はいやと言うほど見破れてしまったのよ。感情的になったのかしら、それともアレンくん自身、もしかして動揺していた?少しでも、躊躇ってくれた?アレンくんが死んだと連絡が入ったのはわずか1時間後のこと。私の小指が、まだ熱を持っている。
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