「卒業とかさあ」

「んー」

「…面倒だよね。」

「んー」

まるで粉雪みたいなさらさらの砂を掴んですくってみれば、指の隙間からサラサラと砂が零れた。マメだらけのごつごつした掌。皮が捲れてお世辞にも綺麗とは言えないこの手でも、砂は引っかかることなくするすると流れていく。
指先で留めようとしても僅かな隙間から落ちていく砂をもういっそこちらから投げてやった。ああこの砂、すごくつめたいな。やっぱ冬に海なんかに来るもんじゃなかった。

「陸は決まったるのー?」

「んー」

「聞いてないよね」

「聞いてるかもよ」

「………」

言わせてもらうと俺は悪戯大好きだ。とくにセナをいじめるのが。いい性格してるって言われるし、悪い性格だって怒られることもある。でもたいてい皆笑ってる。
俺の指から砂が完璧になくなるころには、セナは波打ち際に足をつけていた。寒くないんだろうか。寧ろさっきまで走りっぱなしだったから今は涼しいくらいだと微笑んでいるから、まあいいんだろう。本人の好きなようにさせてやる。
この冬が、開けたら。また人生が変わるな。高校っていうのはなんだかんだで出会いの場所で別れの場所だ。別れると次に会うのは難しい。セナと俺は、どうなるんだろうな。離れるのかな。会うのが難しくなるとか、なるのかな。

「大学?」

「んー」

「就職?」

「んーんーんー」

「どっちだよぉ…」

苦笑しながらセナが生みに向かって足を1歩踏み出した。危ないぞ、って注意しようとしたその瞬間、ぶわっ、と波が高くなってセナを飲み込む。波が高くなりすぎだろこれは!と思い腰を浮かせば、波が引いてセナの姿があらわれた。びしょ濡れで、ちょっと髪の毛がへたっ、ってなってる。

「タオル、ほら」

「ありがとー、陸」

潮くさい匂いをさせて歩いてきたセナにタオルを投げれば、苦笑しながらそれを受け取る。ひとふきしただけでもうタオルの反面がぬれた。こりゃ1枚じゃ足りねーな、と、近づいて上着を脱がせる。

「寒っ」

セナの頭にわかめがぶら下がって、それを見つけた俺は噴出した。「えっ、何?わわわわかめ!!?陸っ、取ってよ!」笑いながら叫んだセナが俺の腕を掴んだので、力を抜いていた俺は見事にバランスを崩して波に飛び込んだ。ついでに俺の腕を掴んでいたセナもほぼ無意識に引っ張られるということで、2人で、

ばちゃん。




「…僕たち何してんだろ」

「…ばかなこと、じゃねえの…」

「っ、ぶ」

「、ははっ」

寒いのに、息が白いのに、わけのわからない楽しさが胸を襲う。冬が、俺たちを笑ってみてる。なあ俺はできればいやな気持ちはすぐに忘れたいんだ。こんな、もうすぐお別れだね、みたいに生ぬるいお湯の中に入り続けるような気持ちは味わいたくないんだよ。
寒いね、はやく桜が見たいね、と言ったセナの頭を抱きこんで、俺は笑い出した。どうしたの陸、と耳元で呟く声が聞こえて、必死に笑い声を装ったけど、ちゃんと笑えてたんだか。もしかしたら泣いてたかも。なあセナ、この冬が終わったら俺たちは?






#016


僕達は長過ぎる冬に


舌打ちをした












20070903