ようはこの馬鹿が悪い、ということで。
にっこり微笑み目の前のキス泥棒をぶん殴るべく腕を振り上げた。イノセンスの寄生した腕はそりゃあ強い。半端なく強い。いっそ発動してやってもいいが、そうすれば貴重な適合者が一人消えることになるのでそんなことはしない、ことにしよう。だけど腹が立つ。
1分前。ふにゃ、とマシュマロのようななんだかそんなものが唇に当たった瞬間思ったことは「は?」だった。それから目の前に大きな褐色めいた瞳があることに気付き、息遣いと緊張した空気が肌に張り付いて意識がはっきりする。気付けば力の限り体を押しのけていた、けれど。
あーもーコイツマジ許さねぇ。普段の自分からは想像出来ないような口汚い言葉をとりあえず出してみた。食らえ、渾身の一発。そして召されろ。






使






白くてかわいいあんちきしょうはまるで何もわかってないみたいに微笑んでいたからそれが妙に腹が立って唇を押し付けていた。あ、これもしかしてファーストか。ファーストなのか。気付いて急いで顔を離そうと思ったのだけれど理性と行動は結びつかないものだ。がっちり唇について離れない。俺軽く変態じゃん、と思いながらとりあえず満足するまでひっつけておいた。そうしたら体を押しのけられて、その些細な抵抗が可愛いかな、とか思っていると半端じゃない空気が肌に突き刺さりああやべえ俺…グッバイ浮世、と思いながら呆然と振り上げられた腕を見ていた。













寸でのところで受け止められて盛大に舌打ちをした。チッ、くらっとけよ。低い声で呟けば、ひえー、とか声が聞こえそうなくらいのばかばかしい表情。隙をついて頬を張り飛ばした。手を振り上げてこれから攻撃するぞーとアピールしてしまうとバレてしまうものだ。この不意打ち作戦はいいかもしれない。ていうかさ、何でキスすんの?そんなに欲求不満だったの?付き合ってるわけでもないし、告白をした覚えもされた覚えもないんですけど。そりゃあ君の事は好きですよしかし僕の気持ちも何も聞かないでいきなりこれは無いんじゃないですかね!まずは交換日記からって聞きますけど、いやまあそんなところから始めたいなんて思ってませんけど、それにしてもこれはあんまりだと思うんですよ、だからやっぱり殴ろう。もう一回腕を振り上げる。今度は受け止められようがその腕ごと持っていく感じで。













やっぱり理性と行動は結びつかないらしい。実践で鍛えた反射神経でなんとか腕を押さえた。その瞬間、チッ、くらっとけよ。…低い声で何か聞こえた!何か神がかり的な何かが起きた!俺危ういところだった!なんかキャラ崩壊してない、ていうか崩壊していますね!と思いながら恐る恐る顔を上げる。なんともいえないこの表情…あ、今更気付いた。俺告白してねーや。告白もしてないくせになにやってんのこの人、っていう表情が出まくってる。いやーこりゃもう言うしかないよな。これはその場のノリと勢いしかないよな。というわけで口をすう、と開いた瞬間再び繰り出される腕。あ、やべ、今度こそよけきれね。








(暗転、)


(そしてまた告白延期)














thanks:SBY