- R side 授業に身が入らない、というのはいかがなものか。まあ陸の成績では多少の授業放棄も認められそうなのだが、中途半端が好きではない彼はそんな自分の現状に満足していなかった。 くるくると指先でペンを回転させながら、ふと外を見る。気持ち悪いほどの晴天だ。今日は特別暑いんだろうなぁ、と考えて外から視線をはがした。窓からは少し離れた席なのに、日光が腕をじりじりと焼いていく感覚に襲われる。 本当に今は冬だっただろうか、と半ば呆けて考えた。 こんな風に、授業すらも集中できなくなるときに考えるのはたいていセナのことだ。この癖――というのだろうか、それは変わっていない。小学生の頃から、今までずっと。 正直、凹んでいた。セナが泥門で仲間に恵まれて楽しく過ごしているなんて、願ってもいない幸福だったのに、途端に置いていかれた疎外感。置いて、とは間違いかもしれない。ただ、それに近い感情を覚えたのは確かだ。「おい甲斐谷!聞いているのか、問3の答は!」どうやらぼうっとしていたのがばれたらしい、珍しく憤慨した様子の教師を見て、それから黒板の問題をチラッと見て、「I=ab+2y(3+c)」落ち着き払った声で言うと、渋々教師は引き下がった。この程度の問題、暗算でできる。 こんなとき、もしも問いかけられたのがセナだったら。そう考えてみるのだ。セナだったらきっと慌てふためいて、考えていたことも真っ白でひどくうろたえると思う。あまつさえ意味不明な言葉を呟いて結局最後にはごめんなさいと言うのだ。 リアルな彼の像に陸は少しだけ笑った。その笑顔を誰も見ていない。こんなとこセナには絶対見せられねぇな、と考えながらまじめに授業に移った。 けれどやっぱり、指先は黒板の数式を書くけれど、頭の中ではセナのことを考えてしまうのだ。 俺がアメフトで西部のLBをしているというと、セナはなんだか安心したような、突き放されたような、どこかに置いていかれたような顔をした。置いていかれたのはこっちだ!と叫びたくなるほど、謝意を感じさせる表情。敵対したことを少し残念に、そして楽しみに思いながらも決して悔いはしない。同じ土俵にいるということすら歓喜なのだ。 授業の終わりのチャイムが鳴り、陸は携帯を取り出す。題名は無題。本文は――、 『今日、会えるか?』 きっと数分後には色よい返事が返ってくるのだろうな、と考えて陸は苦笑した。 鞄の中に確かに彼へのプレゼントが入っていることを確認して、そして淡く微笑む。何て言ってやろう。生まれてきてくれてありがとう、そう言った後でキスのひとつやふたつでもしたら殴られるだろうか。きっと呆けて驚いて顔を真っ赤にして名前を呼ぶに違いない。また考えて、笑った。 ああもう今日もこうして、恋焦がれている。 |