見た目に反して柔らかな髪の毛が風に揺れていた。泥で汚れた毛先に目線を落として、セナはなにやら考え込んでいる様子。かと思えば、ふと顔を上げて俺の顔を見て急に泣き出した。俺はわけがわかんなくてけれどセナの泣き顔があんまりに綺麗でかわいくて優しくて悲しくて、つられて泣いてしまったのだった。
久しぶりにどこかへ出かける?なんていうからすごくすごく楽しみにしていたのに。いざ当日となると部活で午前が潰れて、おまけにせっかくきれいにした髪の毛も泥の中に突っ込んで見事ぱさぱさのべたべたと変化した。念入りに髪の毛を洗って、それでなお鏡でチェックもしたのに。こういうときにはヒル魔さんの馬鹿!と思ってしまう。きっと本人の前で言ったら殺されるまたは埋められる。ぼうっとした表情のまま向こうからやってくる陸の顔を見た瞬間、今までの僕の苦労と陸に対する申し訳なさ(彼は突然空いた午前をどうしようかと本気で悩んでいたようだった)でふいに涙が浮かんできたから、涙腺の決壊に伴い素直に泣くことにした。そうしたら!なんと、陸も泣いていたのだ。僕の泣き顔を見て。陸の泣く顔なんて滅多に見ないし見ているこっちが辛いから僕は本気で涙を流し続けた。なんてみっともないひとたち。
わけがわからないままに落ち合い、わけがわからないままに泣きあい、わけがわからないままに叫んでわけがわからないままに歩き出した。気づけば俺たちは手を繋いだ状態のまま河川敷まで走っていて、涙は流したまま。馬鹿みたいに二人とも泣いていた。セナの掌があんまりにあったたかったからさらにそれが悲しくて。セナの泣き顔はどうしてかつられてしまうんだ。感染性の高い涙だ、と思いながらとどまることを知らない涙を流したいままに流しておいた。セナは泣き止む様子が無い。
僕、どうして泣いてるんだろう。今更になって冷静に考えてみると、ひどく馬鹿らしかった。陸もどうして泣いているのだろう。ここまで考えてひどく阿呆らしくなった。何で僕たちは叫んでいるのだろう。それを考えてひどく悲しくなって、嬉しくなった。絶望と浮上を数回繰り返し、僕たちはほぼ同時に草の上に体を横たえた。ひくひくとしゃくりあげながら、犬の散歩で川の直ぐ横を歩く青年を見送る。陸が思い出したかのように呟いた。俺たち何やってんだろ。僕はそれを聞いて反射的に噴き出す。全くだ!どうして泣いているんだろう、僕たちは。
わけもわからないままに手を繋いでいたのはいいけれど、今更になって恥ずかしくなって手を離した。ひく、としゃくりあげる喉を押さえ込んで深呼吸を繰り返す。涙が流れて幾分すっきりした。お互いほぼ同時に顔を上げて相手の顔を見る。大きな、くりくりとした瞳が涙に濡れて充血していた。見ているこっちが痛々しいほどに。かわいそうだ、と思って手を伸ばす。セナは一瞬震えたようだったけれど、すぐに俺の掌に全てをゆだねたようだった。
急におかしくなって、二人でくすくす笑い始めた。それから「俺たちなにやってんだろな」陸の言葉を皮切りに大きく笑い出す。犬がわんわんほえ始めて僕たちを威嚇した。そりゃあ泣いていたはずの少年二人が急に笑い出したら警戒のひとつやふたつしたくなるだろうね。僕はそれを見て笑い、陸はその僕の様子を見て笑ったようだった。あはは。そして草の上でごろごろみっともなく回転した後、起き上がって二人手を繋いでまた歩き出す。それから町に向かってまた戻り始めた。わけのわからない一日、けれど、
君さえいれば
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