他隊の結果報告を見る限り、まだめぼしい情報は入っていないらしい。
情報に聡い隊があまり無いというのもあるが、それにしても。百単位千単位は軽く越すこの組織の中で、こうも情報が入らないとは。
理由はある。謎に直接関わったものがいないという点だ。
戻ってきた隊の死神はほぼ全員が壊滅状態。口も開けない状態であるから、何があったのか聞くことすらできない。
めんどくせぇな、と呟き、冬獅朗は報告書の一部を手に取った。似たような内容のほかの書類とは違い、多少実になる内容が書き綴られている八番隊の書類だ。
「……ん?」
ふと、気づいた。
負傷者が総勢49名発祥。内27名は今後における活動に支障。
その、27名のうち25名は女。残り22名は全員男で、死亡まで追い込まれたのはほぼ男なのだということがわかる。
怪我をした死神の状況も、何処の隊より綿密だった。といっても、それはあまりに他の隊の内容が薄いからなのだが。
「下腹に怪我…?」
負傷だが命を永らえた男2人と、残り25名の女はそれぞれ下腹部に傷を負っていたらしい。
下半身不随という診断を下ろされたものが大半だ。確かに、それでは今後の死神における活動は不可能に近いだろう。書類整備はともかく、戦闘は。
いち早くそれに気づいた冬獅朗は、立ち上がり乱菊を従えて一番隊へと足を向けた。
「ふむ…。確かに、そうじゃの。日番谷隊長、見事じゃった。この報告を元に、女性死神に注意を促そうかの」
書類を見つめながらそう言った総隊長は、目を細めたまま冬獅朗を見つめた。
深く頭を下げた後、次に向けられる命令を待つ。続けて調査を設けられるのかと思っていた冬獅朗は、総隊長が放った言葉に目を丸めた。
「では、日番谷隊長。お主にこの件を任せよう」
「…へ………?」
思わずぽかんと口を開き、総隊長の前だというのに間抜けな声を出してしまった冬獅朗は次いで、乱菊に名を呼ばれてからようやく意識を戻した。
今、上司はなんと言った?件を、任せる?混乱したまま、首を軽く傾げる。
「あの…、先程の命、今一度口にしていただけますか」
とりあえず申し訳程度に回復した頭で、それだけ問いかけた。総隊長は怒った様子も無く、ふむ、と軽く頷く。
「この件はお主に、十番隊隊長日番谷冬獅朗に任せようと言うたのじゃ」
「なぁなぁ日番谷はん、件の任務任されたんやて?」
「相変わらず耳聡いな…」
十番隊に帰る途中に出会った狐目。
本当にこの男は情報を仕入れるのが早い。たった数分程度で、だ。最早耳聡いなんてものでもない。
「大変やなァ。怪我はせんといてよ?」
「じゃあお前が代われ」
するりするりとどうでもいい会話を繰り返しながら、冬獅朗は眉を寄せた。
任務を任されたからにはやるしかない。のだが、情報があまりに足りなさすぎる。このまま無闇に謎に直接押し入っても、八番隊と同じような目に遭うのが落ちだ。
そうだ、と心の中で手を打ち冬獅朗は50センチ以上上にある顔を見上げた。「なあ市丸」「なに?」表情の読めない浅い笑顔が見下ろしてくる。
「この書類見て、どう思う?」
総隊長に渡したものと全く同じものを手渡し、問いかけた。
恐らくこの書類は市丸のところにも行き渡っているのだろうが、彼のことだ。吉良に任せて自分は見ていないに違いない、と踏んだのだが、どうやら想像通りだったらしい。
へぇ、初めて見たわ。そう呟いて、首を傾けた。
「生き延びたんはほとんど女やね」
「やっぱりお前もそう思うよな」
意外に切れるこの男は、私生活でのだらしなさを引き抜けば頼りになるときもある。
賛同を得て少しばかり気が浮上した冬獅朗は、さらなる意見を求めた。
うーん、と軽く呻った後、市丸は書類を冬獅朗に返しながら言う。
「下腹ばっかていうのが気になるなぁ。後は…」
「……後は?」
冬獅朗も、気になっていたこと。
この任は三番隊に頼めばよかったんじゃないのか、と思いながら、冬獅朗は市丸の呟いた言葉に少しだけ思考を変えた。
「2人、男も下腹食らっとるのが気になるわ」
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