―――腹が。
―――腹に何かが、埋められていく。
―――抵抗する力もなく、ただ埋められていく。
―――なんだこれは気持ち悪い。いやだ。いやだ。いやだ。






「――――ッ!!!!」

寸でのところで悲鳴を抑え、冬獅朗は体を起こした。
途端、腹部と全身に走る強烈な痛み。何だこれは、と思い背中から沈み込む。柔らかな布の感触に、初めてここが屋内なのだと気付く。
冷静になってあたりを見回してみれば、そこは見慣れた隊舎だった。十番隊とは所々違うが、名残ある柱であったり、白い壁であったり。自分の身体的消耗と隊舎の違点から、四番隊だとすぐさま気付く。

「…おはようございます、日番谷隊長」

「卯ノ花…」

「今更挨拶なんて少し可笑しいですけどね」

その言葉につられて窓の外を見てみれば、確かに夕焼けだ。「そういう意味でもなかったんですけど」と背後から声をかけられ、振り返るが卯ノ花はこちらを見る様子も無く診察用紙に何かを書き込んでいる。
かと思えば、三日寝ていたんですよ、と言いながら喉を触ってきた。ふとした、瞬間的な動作が彼女には多い。びくりと肩が跳ね、くすくす笑いをされてから不機嫌に眉を寄せてみれば、素直な謝罪が返って来た。
喉、それから額、まるで風邪の症状を確認するべく動く指をなんとなく目で追ってから、次にと伸ばされた腹を見た。もう一度深く眉を寄せる。虚に攻撃された部分だ。あれは恐らく穴が開いていたから、傷も相当なものなのだろう。
確認をとってから、着物の合わせを少し解かれる。覗いた腹に、首を傾げた。

「…傷が、無い………」

「え?」

ぽつりと呟いた言葉に反応したのは卯ノ花で、異常なしと書き掛けた手をぴたりと止める。
それから再び腹を覗き込み、白い傷ひとつ無いそこに目線を向けた後、冬獅朗に視線を戻した。

「どういうことですか?」

数日前の診察用紙を見直し、鋭い口調で訪ねられる。その一枚を抜き取り、見た。大きな傷は無し、とだけ書いてある。

「そんなはずは、無い。俺は腹を抉られた」

「そんな……」

目を見開き、卯ノ花は再び腹を見る。どこにも、縫い目ひとつ、かすり傷ひとつ無い真っ白で綺麗な腹だ。

「……寝ていた日番谷隊長にはまだ大掛かりな検査はできていません。これより、急遽検査を始めます」

焦り始めた卯ノ花に頷き、指示されるままに冬獅朗はベッドに沈み込んだ。








―――内部分析、精神鑑定、動作確認、及び二度目の身体検査。
どこにも異常は見られなかった、大丈夫ですよ――、そう、言いたかったはずの卯ノ花は浮き出た結果に目を見開き、口を閉じた。
精神鑑定と動作確認は異常無し。仕事に支障は無い。
だが。これはどういうことなのだろうか。隣で同じように審査結果を見ていた勇音も固まってしまったほどだ。
本人は今回の結果に気付いていない。麻酔で身体感覚が無いところを検査したり、気付くことのできるような検査はしていないからだ。
ならばこの結果をどう口にすればいいのだろう。自分自身あり得ないと、そんなことあるはずないと思うほどなのだ。
緊張に固まった自身の腕を掴み、卯ノ花は大きく息を吸う。それから、静かに目を伏せた。








「…どういう、ことだ―――…、卯ノ、花」

臓器の一部が変形。下腹に新たな臓器の発生。

子宮の発生。

「…今しがた、口にした言葉通りです。日番谷隊長」

呆然とこちらを見上げる彼、もとい彼女に、沈痛な面持ちで卯ノ花は言った。



「日番谷隊長は、女性になっています」